料理人が鉄板で調理し、ステーキなどを提供する鉄板焼の文化が神戸で隆盛しはじめ、大阪ではまだそこまで普及していなかったという昭和四四年。神戸で鉄板焼屋を営んでいた友人を持つ初代店主が、ステーキに魅力を感じ一念発起で開業を決意した。五十歳前後での遅い開業であったため、息子である重明さんは大学の途中から店の手伝いをはじめ、卒業とともに店に専念することとなった。お店のスタイルは開業当初から鉄板焼一筋。素材にこだわり、良質な牛肉を仕入れ続けている。「鉄板焼という料理は特別な調理をするわけではないのでごまかしがきかず、素材の良さが命です。そのため、仕入れに妥協はできません。私が事業を継承した頃は黒毛和牛といえば神戸牛で、良質な神戸牛を父の友人から仕入れられたことは大きかったですね。阪神大震災の頃、一時的に神戸牛の仕入れが難しくなって、その頃から仕入れの幅を広げ、今では全国のA5ランクの黒毛和牛を使用しています」と重明さんは語った。
いいお肉でステーキを提供するというスタイルから、お肉好きの人や、誕生日や結婚記念日などのアニバーサリーで訪れる客層が定着。開業からの五四年間で様々な苦境があったが、常連客の支持で乗り越えることができた。「新型コロナの時は補助金が出たので何とかなりましたが、狂牛病やリーマンショックの時はそうした補填がなく、売上も大きく減って大変でした。それでも特別な何かをすることなく続けて来られたのは、お店のこだわりをお客様に気に入っていただけて、足を運んでいただけたからだと思います」。鉄板焼以外の料理はほとんど提供することのない「今里鉄板焼」だが、記念日に利用されるお客様が多いことから、予約の方限定で記念日コースの設定を行っている。「記念日コースはネット予約が普及しだしてから始めました。近所に友人のケーキ屋さんがあるのでそこにお願いして、デコレーションケーキを用意してもらっています」。特別な日、いいお肉を食べたいと感じた時には、ぜひ活用していただきたい。